2009年10月
学習のポイント
今回のテーマは瀉下薬の適応と適量である。その記述は薬剤師会が消化器病センターの医師を迎え勉強会を進めている、という想定で進められる。取り上げた学習課題は全部で7つ、その前半部分(その一)には5つの課題が登場する。便秘の定義、適応の判断基準の2つは瀉下薬の適応探しの出発点となる非適応疾患の鑑別と機能性便秘の診断ポイント、続く3つの課題、瀉下薬の適量、治療の最終目標、用法・用量は、瀉下薬の適正使用を意図して用意された。
学習課題その1:便秘の定義
薬剤師A:先生、便秘には定義があるのでしょうか?山岡先生:皆様方も「便秘の相談」を受けることが多いのですね。便秘の定義ですが、実は、明確なスタンダードがないのです。便秘の治療を考える立場では、3〜4日以上にわたって排便がない例、排便は毎日でも、便量が少なく、残便感、腹部膨満感、食欲不振、腹痛、めまい等の身体症状を訴える例を対象と捉えてよいでしょう(表5-1)。

学習課題その2:胃がんの集団検診の後の下剤の適量について
薬剤師B:胃がん検診では、内視鏡とバリウム検査のどちらを受けたらよいのでしょう。山岡先生:集団検診ではバリウム検査が多いと思います。個人的に検査を受ける方には、バリウム検査がスクリーニング検査的な位置づけになることを理解頂いた上で、検査前の所見をもとに、内視鏡検査あるいはバリウム検査のいずれかを選んでもらっています。
薬剤師B:集団検診でバリウム検査を受けましたが、下剤はどのくい飲んだらよいのでしょうか?
山岡先生:普通、造影剤のバリウムは、検査後に服薬するラキソベン液(1mL中ピコスルファートNa7.5mg含有.成人用量10〜15滴)によって6〜7時間で排泄されます。しかし、バリウムの排泄時間は、瀉下薬の便秘への有効性と同じように個人差があり、検診時の体調なども影響しますので、2〜3日が過ぎてもバリウム便の確認が取れないケースでは、プルセニド錠(1錠中センノシドA・B12mg)を1〜2錠、服薬してもらっています1)。
学習課題その3:瀉下薬の適応の判断基準
薬剤師C:OTC薬(瀉下薬)を勧める基準について教えてください。山岡先生:瀉下薬、整腸薬が適応となる便秘は、機能性便秘の一部に限られます。便秘は一過性と常習性に分けられますが、OTC薬の適応は、常習性便秘のうち、結腸性便秘、直腸性便秘、痙れん性便秘について検討されます。常習性便秘では、食事療法、運動療法、ストレス緩和療法の意味が大きいことは、皆様もご存じの通りです2) (表5-2)。

薬剤師C:OTC薬が使えない器質性便秘は、どのように見つけるのでしょうか?
山岡先生:器質性便秘は、腸管の器質性異常、諸臓器の病変による腸管壁への圧迫・浸潤で生じる便秘で、OTC薬は適応になりません。便秘の原因になる結腸の形状異常には、先天性の巨大結腸症、後天性の特発性巨大結腸症とS状結腸過長症などがあります3)(図5-1)。しかし、いずれも病初期の段階で症状からの診断をすることには限界があります。

巨大結腸症:腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)をつかさどるアウエルバッハ神経叢(しんけいそう)の欠損で起きる先天性の疾患で、乳幼児期に始まる排便困難、頑固な便秘、腹部の膨隆(ぼうりゅう)がみられる。本症を疑う訴えがある場合に、受診する例が多い。
特発性巨大結腸症:アウエルバッハ神経叢の欠損、器質的な狭窄(きょうさく)が原因とならない巨大結腸症で、乳児期の便通異常がなく、1〜2歳以後に慢性便秘が生じ、2次的に巨大結腸となる。発症には心因的要因がある。
S状結腸過長症:結腸が長く移動性に富む症候で成人に多い。S状結腸に多く現れ、S状結腸過長症といわれる。便秘が主要症状で、一般に、下剤や浣腸剤(かんちょうざい)の乱用がかかわっていることが多いといわれている。
また、便に血液・粘液の付着、形状異常があるときは、大腸がん、大腸ポリープが潜んでいる可能性がありますので、問診ではその点に十分配慮しましょう。大腸憩室(だいちょうけいしつ)では、腸壁に袋状の窪(くぼ)みができ、その部位が炎症をくり返すことで、腸管が狭くなり便秘を起こします3)(図5-2)。

薬剤師C:機能性便秘を症状から見出すよい判断基準はありますでしょうか?
山岡先生:器質性便秘を思わせるような警告症状がないと判断できたら、機能性常習便秘の病態把握の作業に入ってもよいでしょう2)(表5-3)。
弛緩性便秘:高齢者・女性などの残便感、直腸・肛門の遮断感の聴取がポイントになります。
直腸性便秘:便意のこらえ、痔疾などの排便抑制因子、食事習慣(朝食未摂取、あるいは少量摂取)、下剤の乱用などに注意して問診を進め、総合的に判断しましょう。
便秘型IBS:ストレス誘因性の腹部膨満感、兎糞(とふん)の確認などが判断基準になります。

学習課題その4:瀉下薬治療の最終目標
薬剤師D:山岡先生、OTC薬(瀉下薬)による治療目標はどこにおいたらよいのでしょう?山岡先生:われわれは患者さんに、瀉下薬に依存しない生活習慣を維持してもらうことが、治療の最終目標だと考えています。健康な排便習慣の確立は、ごく平凡な生活習慣の見直しから始まります。ここでは、朝食をしっかり摂ることが健常な排便習慣に結びつくことを説明しましょう。
普段、便は下行結腸〜S状結腸に貯留されています。その貯留便は肛門口に行かないように、下行結腸〜S状結腸は恥骨直腸筋によって前方(腹側)に引っ張られています。ところが、朝起き朝食を摂りますと、起立反射(起床時に腸が動き出し、便を直腸に送る反射)、胃結腸反射(食事摂取後に腸蠕動により便を肛門側に送る反射)が働いて、便が直腸に送られてきます。
われわれの排便習慣といいますのは、直腸の膨(ふく)れ→便意の自覚→意識的な排便抑制(肛門が閉じた状態)→脳からの抑制解除→腹圧をかける→排便、という流れで、正常な排便が保たれているのです。“正しい朝食が正常な排便の鍵”となることが分かります5)(図5-3・図5-4)。


薬剤師D:山岡先生、瀉下薬による治療目標を具体的に示して頂けますか?
山岡先生:結論から言えば、良い生活習慣が維持され、1日1回有形便の排泄があり、排便に関連した症状がないことが治療目標になります(表5-1)。ここでいう有形便の判断ですが、ブリストル便形状スケールの4(ソーセージ状の有形便)を基準と考えています(図5-5)。

学習課題その5:瀉下薬の用法および用量
薬剤師E:先生、瀉下薬の効果は個人差が大きいといわれましたが・・・・。山岡先生:はい、その通りです。バリウム検査後のラキソベン液の用量に関する数年におよぶ調査研究では、ラキソベン液の用量幅は、0〜60滴に及んでいます。つまり、検査後の下剤の用量は、通常の用量幅に収まらないのです。現在、ラキソベン液の標準用量を7滴としていますが、検査時に、便通・排便時の症状について問診し、適正と思われる用量を割り出しています1)。
薬剤師E:先生、ラキソベンの例で、0〜60滴と大きな幅を示していすが、なぜなのでしょう?
山岡先生:一番大きい理由は、過剰なストレスが迷走神経路を介して消化管に伝えられ、排便反射に影響を与える“脳腸相関”が関与していると考えています7)(図5-6)。

薬剤師E:先生、瀉下薬は種類も多く、その選択基準、用量調節の問題がありますが・・・。
山岡先生:常習性便秘に用いるOTC薬は種類が多く、1製品に複数の成分が配合されています。また、「大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)」のような伝統的な漢方処方薬もあります。選択の幅も医療用医薬品より多く、したがって、瀉下薬に依存する方も多い印象をもっています2)。
医療用と一般用の同一配合成分、また、類似作用成分の配合剤をそれぞれ3つ選んで、その用法・用量の比較表をつくってみました。そこで分かったことが2つあります。1)ピコスルファートナトリウム水和物配合剤で〔一般用/医療用の用量比〕=76%、酸化マグネシウム製剤の用量比は、1/3〜1/1の範囲にある、2)医療用には効果発現時間の記載がありますが、一般用にはない、また、医療用と一般用の同一成分製剤に服薬時間指示の不一致が見られました(表5-4)。適剤探しと服薬指導の参考にしてください。

〔参考資料〕
1)森 秀一他:集団検診における下剤の適量性について(第22回岡山医療生協学術研究発表会演題;2002年)
2)宮田満男他:OTC薬とセルフメディケーション−症状からの適剤探し−p.105-124. 金原出版,2009
3)平塚秀雄(監):便秘って、なあに?http://www.teijin-pharma.co.jp/benpi/index.html
4) 過敏性腸症候群の治療ガイドライン2006
5)神山剛一:月間ナーシング Vol.21.No.11.2006.p.92-97
6)Lewis SJ, Heaton KW:Scand. J. Gastroenterol. 32 (9): 920–4,1997
7)藤宮峯子:腸と脳の機能相関(ストレスで起こる消化管機能異常症の治療戦略)((J. Physiol. 550, 227, 2003, Gastroenterology 129,8,2003,Gut 54, 18,2005,Am J.Physiol.G-L. 294,G1210, 2008)
2)宮田満男他:OTC薬とセルフメディケーション−症状からの適剤探し−p.105-124. 金原出版,2009
3)平塚秀雄(監):便秘って、なあに?http://www.teijin-pharma.co.jp/benpi/index.html
4) 過敏性腸症候群の治療ガイドライン2006
5)神山剛一:月間ナーシング Vol.21.No.11.2006.p.92-97
6)Lewis SJ, Heaton KW:Scand. J. Gastroenterol. 32 (9): 920–4,1997
7)藤宮峯子:腸と脳の機能相関(ストレスで起こる消化管機能異常症の治療戦略)((J. Physiol. 550, 227, 2003, Gastroenterology 129,8,2003,Gut 54, 18,2005,Am J.Physiol.G-L. 294,G1210, 2008)
|
|
|
医療・健康情報グループ検索




