2010年02月
学習のポイント
薬局等の店頭には、新型インフルエンザ、季節性インフルエンザ、かぜ症候群の疑診例が訪れる。相談者は、さまざまな不安、問題を抱えて薬剤師等のもとを訪れる。プライマリケアの段階では、2つの重要なポイントを念頭におかなければならない。1つは緊急に受診を必要とする新型インフルエンザ等の鑑別と受診の勧奨、2つ目はかぜ薬が適応となるかぜ症候群の見極めとかぜ薬の適正使用、かぜ症候群の一般療法への助言と指導である。検討事例:かぜ症候群(初回訪問時の聞き取り)その一
66歳男性 :相談者は、昨日から熱っぽく(就寝前の体温は36.8℃を計測)、体がだるく、のどの痛みも感じている。最近の新型インフルエンザの流行が気になって、相談に訪れている。7.1.薬剤師によるかぜ症候群の症状の聞き取り事例
薬剤師:熱っぽく、のども痛むとのことですが・・・。ほかに、気になることはありますか?相談者:実は、先月もかぜを引いて、2週ほど前に直ったと思っていたのですが・・・。
薬剤師:なるほど・・。先回のかぜの症状、そのときの養生の様子を教えて頂けますか?
相談者:最初の状態は、先回の状態と同じようです。先回は、その後、くしゃみ・鼻水、咳・たんなどの症状が3〜4日つづいて、熱っぽかったので、半日、仕事を休んで養生しました。
薬剤師:なるほど。今回も最初の症状や経過が似ているとのことですが、熱感・悪寒、息苦しさ、下痢、頭痛など、気になる症状はありますか?
相談者:いいえ、特にないと思います。
7.2.かぜ薬の適応探し
7.2.1.まず、インフルエンザとの鑑別をしよう。薬剤師等は最小限の聞きとりで、インフルエンザを疑うに足る正当な理由、新型インフルエンザの臨床症状、日本呼吸器学会「呼吸器疾患に関するガイドライン」などを参考にインフルエンザの疑診例を鑑別し、必用な処置をとらなければならない1)(図 7-1)。

不特定の相談者からインフルエンザ(新型および季節性)を鑑別するには、まず、感染を疑うに足る疫学的要因(インフルエンザ患者との濃厚な接触、職場・学校、家庭などでの患者発生状況など)の確認から始める。続いて、蓄積されている新型インフルエンザの臨床症状情報(38℃以上の発熱、咳、熱感・悪寒、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、全身倦怠感、頭痛、関節痛など)などを参考に、相談者の症状を聞き取り、適正に評価する。さらには、日本呼吸器学会「呼吸器疾患に関するガイドライン」の呼吸器感染症における自宅療養と受診を判断する目安(判断基準)などを参考に、自宅療養あるいは受診の判断をする。
受診を判断する場合は、かかりつけ医あるいは発熱外来機能のある医療機関の受診を勧める。残る例について、自宅療養が適切であることを確認するために、“かぜ薬の適応探しの問診ポイント”を用意し、適応探し最後の聞き取りを進める(表 7-1)。

7.2.2.かぜ症候群の問診ポイントの意味を考えよう
表7-1に示されている「聞き取りのポイント」から、発熱、かぜ症状、病原ウイルス(ライノウイルス)について、聞き取りの意味を考えることにしよう。とくに、発熱については、かぜ症候群の病期との関係から、かぜ薬に配合される解熱鎮痛薬等の適応に慎重さが求められる。
・発熱 :ヒトの体温は脳の深い場所(視床下部)にある温熱中枢をkey station とする体温調節機構で維持・調節されている。発熱は細菌・ウイルスなどの感染で起きる。好中球などがこれらの病原を貪食(どんしょく)するとき、病原を排除するために、内因性発熱物質をつくり出す。その発熱物質がプロスタグランジンE(P GE)を産生し、体温調節機構に働きかけ発熱を促している。
つまり、発熱は感染免疫と呼ばれる生体防御の機序が健全に働いている証でもあり、その発熱を引き起こす段階が、感染症の発熱推移における前兆期から上昇期に相当する。鳥肌が立ち、ふるえを覚えるが、このときの皮膚血管は拡張している。次のピーク期は感染免疫が全開の状態で病原と戦っている段階である。続いて、下降期が訪れる。免疫反応が効を奏して細菌やウイルスが数を減らし、あるレベル以下になると、生体は温熱中枢の設定温度を平常域に戻そうとする。熱が下がり症状も緩和してくる。このとき、生体は発汗、筋弛緩の状態になっている2)(図 7-2)。

・かぜ症状 :健常人がウイルスを気道に取り込んだ場合、気道粘膜に備わる非特異的な感染防御網に捕えられ感染症を引き起こすことはない。過労などの要因が加わると、ウイルスは上気道の粘膜細胞に入り込み感染を成立させる。しかし、生体は、このような状況にも炎症反応と呼ばれる素晴らしい対応をしてくれる。気管支粘膜の細胞がウイルスで破壊されると、近傍の細胞が働いて免疫細胞から炎症メディエーターを動員させ、ウイルスの増殖にブレーキをかける。
こうして上気道(鼻腔から喉頭まで)に急性期炎症反応が起きると、血管は広がって充血し、かぜ症候群に伴う発赤(ほっせき)・熱感などの“かぜ症状”が出る。また、血管を流れる蛋白成分を含んだ体液が血管外へと遊出するために、鼻粘膜・喉などに腫(はれ)を起こす。さらに病勢が進むと、気管から気管支・肺に至る下気道(かきどう)に炎症がひろがり、声がれ、呼吸困難、咳・痰など、症状にも重症感を伴う。頭痛、発熱、腰痛、全身のだるさ、食欲不振といった全身症状を訴えることも少なくない。薬剤師などは、このような症状を訴えてくる相談者に対して、いまどのような病態にあるのかを把握し、かぜ薬の適応・非適応を判断しなければならない(図 7-3)。

・かぜ症候群の病原 :かぜ症候群の病原にはウイルス、細菌、クラミジア、マイコプラズマなどがあるが、成人では大部分がウイルスによるとされている。かぜ症候群の原因となるウイルスは、成人ではライノウイルス、小児ではアデノウイルス、パラインフルエンザウイルスが多い。かぜ症候群は典型的な*市中感染症であるが、新型インフルエンザ等では、高齢者、小児、免疫不全者を含めたハイリスク者を含めた院内感染症対策も重要な課題になっている(図 7-4)。

もっとも頻度が高いライノウイルスは、ピコルナウイルス科、ライノウイルス属に属するRNA型ウイルスの総称で、*エンベロープをもっていない。軽度のかぜ症候群、上気道感染の原因ウイルスで、幼児、高齢者、免疫不全患者では、感染が下気道におよぶ場合がある。年間を通じて見られ、秋から春にかけて多発生する。ライノウイルスには100を超える血清型があるため、ヒトは再感染を繰り返す。ライノウイルスは感染症例の鼻汁から検出され、汚染された手指で鼻や眼に触れることにより接触感染するといわれるが、長時間近接した状況があれば、接触がなくとも感染が成立するといわれている。ライノウイルスはエンベロープをもたず、アルコールなどの消毒薬に対する抵抗性が強いため、流水による手洗いで物理的にウイルスを洗い流すことが基本となる6)。
市中感染症:病院外での感染による感染症で院内感染と対比される。病院内は多様な病原による感染患者が集まり、多剤耐性菌も多く生息している。また、免疫抑制剤の投与などの要因から感染に罹りやすい(易感染状態)患者も少なくない。この様な理由から、院内での感染症を病院以外(市中)の感染症と区別して扱っている。
エンベロープ:インフルエンザウイルスなど一部のウイルスにある膜状の構造で、ウイルス粒子の最外側に位置する。エンベロープはその大部分が脂質からなるため、エタノールや有機溶媒、石鹸などで処理すると容易に破壊する。このため、一般にエンベロープをもつウイルスは、消毒用アルコールによる不活性化が容易である。

検討事例:かぜ症候群(初回訪問時の聞き取り)その二
薬剤師は、新型インフルエンザを懸念する相談者に新型インフルエンザ、季節性インフルエンザを疑う症状がなく、現在の全身状態も安定していると判断している。しかし、66歳という年齢と高血圧症、脂質異常症でプラバスタチン、カルシウム拮抗薬を服薬して数年が経過していることから、自宅での療養に加えて、適切なかぜ薬によるセルフメディケーションが必用と考えている。7.3.薬剤師によるかぜ薬の適剤探しの一例
薬剤師:早速ですが、今度のかぜ症状で、なにかお薬はのまれましたか?(注1)薬剤師は、相談者が先月に続いて今回もかぜ症候群に罹患したことを重く見ている。原因ウイルスは、成人に多いとされる“ライノウイルス”である可能性が高いと考え、相談者がハイリスクとはいえない状態であるが、油断すれば「下気道感染」へと発展する懸念もあると慎重論をとっている。
相談者:実は、自宅に備えつけの「新ルルAゴールド錠を3回(9錠)」のみました。そのせいか、この前のときのように、鼻水、くしゃみ、頭痛などが起きていないような気がします。
薬剤師:なるほど・・。このまま、症状が軽くなるといいですね!
(注2)相談者が3回服薬した「新ルルAゴールド錠」は、いわゆる総合かぜ薬で、3種類の基準外成分クレマスチンフマル酸塩、リゾチーム塩酸塩、ベラドンナ総アルカロイドなど9成分が配合されている。薬剤師は、相談者がかぜ症候群の初期症状を訴えているが、解熱鎮痛薬、鎮咳去痰薬、抗アレルギー薬を積極的に服薬する状況にはないと考えている(表7-2)。

相談者:ただ、今回は、かぜのせいなのでしょうか、“肩こり・腰痛”があって、気になります。先生、肩こり・腰痛はかぜに関係があるのでしょうか?
薬剤師:かぜの感染初期の発熱・悪寒症状に伴う症状として“肩こり・腰痛”があります。肩こり・腰痛は、ストレス、過労、頸肩腕症候群などさまざまな要因がありますが、これまでの経緯から、かぜの引き始めに見られる肩こり・腰痛症状の可能性があります。
相談者:先生、インドメタシンの貼り薬が必要でしょうか?
薬剤師:そうですね・・・。痛みを感じている肩の部分を指で押して頂いて、痛みの強い部分、硬く感じる部分がありますか? また、腰痛は姿勢との関係、運動制限がありますか?
(注3)薬剤師はインドメタシン貼付剤が適応となる頸肩腕症候群、腰痛症の情報を得るために、頸肩腕症候群の重症度�度以上にみられる「筋硬結・筋圧痛」の症状、中等度の腰痛症状があるかを問診によって確かめている。
相談者:いえ、とくにありません。
薬剤師:そうですか。やはり、いま気になっておられる肩こり・腰痛は、かぜからくるものと考えられます。インドメタシンの外用薬は必用ないと思います。
相談者:先生、かぜの方ですが・・・。
薬剤師:はい、肝心のかぜ症状のことですが、症状の内容、その程度、これまでの経緯などからインフルエンザは否定できると思います。しかし、かぜのお手当ては重要だといえます。幸い、かぜは引き始めのようですので、どんなお薬がよいか考えましょう。
(注3)薬剤師は、相談者の薬歴、普段からの健康状態などの情報と今回の訴えに発汗傾向がないなどの要因から、麻黄が配合されている葛根湯製剤が適剤であると考えている。また、現在、服薬しているプラバスタチン、カルシウム拮抗薬の服薬回数が、それぞれ1日1回であることを考慮して、服薬回数が1日2回の葛根湯製剤の「カコナール2葛根湯顆粒」を推奨することを考えている。
薬剤師:如何でしょう。いまはかぜの引き始めで、発熱、肩こり・腰痛、軽い鼻炎症状があるようですので、伝統的な漢方処方薬のうちから「カコナール2葛根湯顆粒」をお勧めしたいと思います。
相談者:漢方薬ですね。飲み方は難しいですか?
薬剤師:いいえ。朝と夕方、食事の前にお湯でお飲みになってください。この薬は、1〜2日ほどお飲みになれば、辛い症状は和らぐと思いますが、もし5〜6回飲んでも症状が楽にならないようでしたら、こちらにおこし頂けますか?
相談者:分かりました。
薬剤師:いつもの薬(プラバスタチンとカルシウム拮抗薬)は、いつ飲んでいますか? 「カコナール2葛根湯顆粒」は、食事の前あるいは食事後2〜3時間おいてから飲まれた方が効果的なのですが・・・。
相談者:2つの薬は朝食時に飲んでいます。この薬(カコナール2葛根湯顆粒)は、これまでの薬と一緒にのんでもよろしいですか?
薬剤師:朝は2つの薬と一緒にお飲みになって結構です。もう1回は、夕食後2〜3時間、あるいは就寝前におのみ頂けますか?
相談者:分かりました。
薬剤師: では、お大事になさってください。睡眠、消化の良い食事、水分の補給に気をつけて頂けますか? 晩酌も数日は控えましょうか?
〔参考資料〕
1)日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」成人気道感染症診療の基本的考え方.p.5 2003
2)ライオン株式会社 ホームページhttp://www.lion.co.jp/index2.htm
3)東邦大学医学部「呼吸器系」ユニット講義録http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/physi1/respi.html
4)日本大学呼吸器科・赤柴恒人(監修):かぜ症候群 http://www.ebm.jp/disease/breath/01jokido/index.html
5)フリー百科事典「ウィキペディア」エンベロープhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%97
6)かぜ症候群の原因ウイルス;Ys Letter No.34 p.1〜4 2004(info@yoshida-pharm.co.jp)
7)新ルルAゴールド添付文書(2009年2月3日更新)
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