2010年03月
学習のポイント
咳止め(鎮咳(ちんがい)・去痰薬(きょたんやく)は、①“かぜ”をひいてから数日経過のちに現れる乾性咳(かんせいせき)、②のどに違和感のある咽頭アレルギーと違和感を特徴としないアトピー咳嗽、③喘息様(ぜんそくよう)の激しい咳発作などの症状に対して調製された内用剤である。咳の原因を見極めることは難しく、その原因を明らかにすることなく咳止めを勧める危険性がある。相談者との面談では、まず、直ちに受診が必要な咳症状を見極める“除外診断の基準”を会得することが重要である。今回は、咳止めの効能から、“ぜんそく(咳喘息)”の疑診例を採り上げたが、本症を咳症状から判断することは容易ではなく、さらに、咳止めの配合成分を基礎とした適剤探しには、広範な知識と経験が必要であるとされている。本稿では、1)症状の聞き取りからの適剤探し、2)咳止め服薬後のフォローアップの2つを学習ポイントとしている。
検討事例:咳喘息の疑診例(初回訪問時)
24歳女性 :3月にかぜを引いたことが原因で、夜間から夜明けに咳き込んで十分睡眠がとれない状態が3週間ほど続いている。仕事への影響も懸念されるので、健保組合から支給された総合感冒薬をのんで3日になるが、いっこうに良くならない。8.1.薬剤師による咳喘息の聞き取り事例
薬剤師:咳の症状について、少し詳しくお聞きしてもよろしいですか?相談者:はい。かぜを引いたとき咳は出ませんでした。咳は3週間前からです。
薬剤師:いま、お辛いと感じている症状は“せき”だけでしょうか?
相談者:はい、そうです。
薬剤師:咳の症状のほかに痰が絡むような感じはありますか?
相談者:痰が絡む感じや喉のイガイガする感じはありません。
(注1)回答内容は2つの重要な判断基準を与えている。1つは慢性の乾性咳嗽であること、2つ目は咽頭異常感(痰の絡んだような感じ、掻痒感、イガイガ感)がない、ことから、日本咳嗽研究会の「慢性咳嗽の診断基準2005」を参考として、咽頭アレルギー・アトピー咳嗽ではない可能性が高いと判断することができる(表8-1)1)。
表8-1 咽頭アレルギー・アトピー咳嗽診断基準
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1. 喘鳴がない咳が3週間以上持続。
2. 3週以上続く咽喉頭異常感(痰が絡んだ感 じ、掻痒感、イガイガ感、チクチクとした咽 頭痛) 3. アトピー素因を示唆する所見 |
4. 鎮咳薬、気管支拡張薬が咳に無効。
5. 明らかな急性咽頭炎(異物・腫瘍所見がな い)。 6. 抗ヒスタミン薬/ステロイドで症状が消失ま たは著明改善 |
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(注2)咽頭アレルギーの診断基準は、1)3)〜6)または2)3)6)を満たすもの、アトピー咳嗽の診断基準は1)3)4)6)を満たすものとされる。つまり、咽頭アレルギーとアトピー咳嗽の症状には重なり合いがある。
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薬剤師:いままで、3日間、服用していたお薬はこれですね!
相談者:はい、そうです。
(注3)薬剤師は、相談者が持参した「総合感冒薬」にジヒドロコデイン燐酸塩、ジフェンヒドラミン塩酸塩などが配合されていることを確認し、咳嗽研究会診断基準2005「かぜ症候群後遷延性咳嗽の診断基準(あまい基準)」の2.治療後診断基準を参考として、かぜ症候群後遷延性咳嗽ではない可能性が高いと判断している(表8-2)1)。
表8-2 かぜ症候群後遷延性咳嗽の診断基準(あまい基準)
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治療前診断基準 (薬物療法前の基準) |
◇かぜ症状(鼻汁・鼻閉・発熱・流涙・咽頭痛、かすれ声)のあとに続く持続性の咳。 |
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治療後診断基準 (薬物療法後の基準) |
◇中枢性鎮咳薬、ヒスタミンH1受容体拮抗薬、麦門冬湯(ばくもんどうとう)、吸入・内服ステロイド薬、吸入抗コリン薬が有効。治療後は比較的すみやか(4週間が目処)に咳が静まる。 |
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(注4)治療薬には医療用医薬品も含まれる。
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相談者:いいえ、特にないと思います。
(注4)この段階で、薬剤師は慢性の乾性咳嗽の原因について、咳嗽研究会診断基準2005を参考に広い範囲の可能性を探っている。この事例は、夜間の乾性咳が特徴で喘鳴や息苦しさがないことから、気管支喘息、副鼻腔気管支症候群である可能性が低い、また、喫煙習慣がなく、運動時の息苦しさの訴えもないことから、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を否定できると判断している(表8-3)1)。
表8-3 咳喘息の診断基準
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相談者:いいえ、のんでいません。
β2刺激薬:気道の交感神経β2受容体を直接刺激して気管支平滑筋を弛緩させ、気道を拡張させる。メトキシフェナミン塩酸塩は直接型β2刺激薬として、エフェドリン同様の気管支拡張作用を発揮する。
キサンチン誘導体:一般用医薬品には、アミノフィリン、ジプロフィリン、テオフィリン、プロキシフィリンの4つが配合できる。アミノフィリン、ジプロフィリン、プロキシフィリンは、いずれも気管支拡張作用が強く、医療用医薬品では、気管支喘息に対して適応をもっている。
(注6)この段階で、薬剤師は咳喘息である可能性を想定しているが、なお、①ACE阻害薬による咳嗽、②胃食道逆流症による乾性咳等の可能性を否定する情報を相談者から求めている。その上で、薬剤師は気管支拡張薬(dl-メチルエフェドリン塩酸塩)、β2刺激薬(メトキシフェナミン塩酸塩)、キサンチン誘導体(ジプロフィリン誘導体)配合(効能では「ぜんそく」と表現される)薬剤を推奨し、相談者に対しては、その後の症状の変化に十分注意し、何か心配な状況があれば、再訪問してもらうか、かかりつけ医等を受診するよう勧める方針を固めている(表8-4)。
表8-4 咳喘息に適応がある咳止め2)
| 効能/配合薬 | 製品名 (配合成分の略号) |
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ぜんそく・たん/ 気管支拡張薬+抗ヒスタミン薬 |
①エスエスブロン液Z(MPH,DPP,CPM,バクモンドウ) ②アストフィリンS錠(NCP,MEH,DPP,DHH) ③アドレニンエース錠(MEH,DPP,CPM,南天実,ゴミシ) |
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(注7)〔Ⅰ鎮咳薬〕NCP:ノスカピン塩酸塩、〔Ⅱ気管支拡張薬〕MPH:メトキシ
フェナミン塩酸塩、DPP:ジプロフィリン、MEH:メチルエフェヂリン塩酸塩、
〔Ⅲ抗ヒスタミン薬〕CPM:クロルフェニラミンマレイン酸塩、DHH:ジフェンヒドラ
ミン塩酸塩、〔Ⅳその他成分〕バクモンドウ:バクモンドウ軟エキス、南天実:南天
実流エキス、ゴミシ:ゴミシ流エキス.
(注8)咳喘息の病像は咽頭アレルギー、アトピー咳嗽と重なるめに、「ぜんそく・たん」を効能とする製剤には抗ヒスタミン薬が配合される。したがって、「ぜんそく・たん」を効能とする製品は、咽頭アレルギー・アトピー咳嗽への適応を含むことになるが、咽頭アレルギー・アトピー咳嗽には、気管支拡張薬を含まない適剤を選ぶ必要がある。 |
8. 2. 適応探しから適剤探しまで
8. 2. 1. まず、咳の急慢性の別、感染症・薬物などの誘因の推定、咳の特徴を把握しよう。
咳は急に起こる咳(急性の咳)と長く続く咳(慢性の咳)に分けられる。いずれも、咳症状の特徴(例:夜間の乾性咳→咳喘息、喘鳴(ぜんめい)→気管支喘息、季節性→アレルギー性鼻炎の随伴症状など)、咳以外の症状(例:熱・喉の痛み→かぜ症候群、熱・息苦しさ→肺炎の可能性、喘鳴・粘稠な痰→気管支喘息、他の症状がない→ACE阻害薬・降圧薬の服薬)から、背景にある咳の病態を推し量ることが重要である2)。8. 2. 2. 咳嗽研究会診断基準2005を判断基準とする聞き取りで病態を明らかにしよう。
咳症状を訴える相談者との面談では、まず、直ちに受診が必要な咳症状を見極めるための“」除外診断の基準”を会得することが重要である。慢性閉塞性肺疾患(C OPD)、気管支喘息、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症による慢性咳嗽、心因性咳嗽、後鼻漏(こうびろう)による咳嗽には、一般用の咳止めは使用できない)2)。8. 2. 3. 咳止めは、かぜの後の咳、咽頭アレルギー・アトピー咳嗽、咳喘息の軽症例に限られる。
日本咳嗽研究会の診断基準2005を判断基準として、かぜの後の咳、咽頭アレルギー・アトピー咳嗽、咳喘息の“診断基準による適応探し”を行い(表8-1〜8-3)、適応と考えられる例への適剤を“配合成分による咳止めのグルーピング薬剤”から、緑内障、前立腺肥大症などの“服薬制限因子”を考慮して、“適剤探し(選択)”を行う2)。 検討事例:咳喘息の疑診例(2度目の訪問時)
24歳女性 :推奨の咳止めを飲んでから、3日目には咳症状が楽になり、睡眠もとれるようになった。ところが、業務出張での会議中、タバコの煙を吸い込んだこと(受動喫煙)が原因らしく、また、もとの状態に戻り、夜間から明け方にかけて咳発作で眠れない状況になっている。8.3.薬剤師による咳止め服薬後のフォローアップ事例
薬剤師:咳の症状はお薬を飲み始める前と同じような状態ですか?相談者:はい。前よりは楽な状態です。最初の再発作は、出張の1日目でした。
薬剤師:出張中の発作では、薬はのまれましたか?
相談者:いいえ。ホテルのフロントで用意されている咳止めは1種類で、今までの薬と違うので、のまなかったのです。
(注9)薬剤師は、“今までの薬と違うので・・”という相談者の談話について、フロントに備蓄されている咳止めが、気管支拡張薬の配合剤であったかどうかの確認はしていない。
薬剤師:出張から戻られてから、薬はのまれましたか?
相談者:いいえ。・・・。実は、来週からプライベートで1週間ヨーロッパへの旅行を考えているのですが・・。少し、心配なので相談にきました。
薬剤師:来週には1週間のヨーロッパ旅行とのことですが、ヨーロッパでは行き先によって、日本と同様の配合成分の製剤が手に入りにくいと思います。また、旅先の気温・湿度変化等による咳発作の誘発に備えなければなりませんので、一度、かかりつけ医を受診されたら如何でしょう。
(注10)薬剤師は咳喘息の治療b>に詳しい呼吸器内科の診療機関情報などを持っていたが、この段階での情報提供の必要はないと判断し、かかりつけ医の受診を勧めている。日本咳嗽研究会では、ホームページに「咳を専門とする医師」の紹介をしている1)。
相談者:はい。そうしてみます。
8.4.服薬後のフォローアップの留意点
咳嗽研究会診断基準2005によれば、1)かぜの後の咳、2)咽頭アレルギー・アトピー咳嗽、3)喘息様の激しい咳発作(咳喘息)のいずれについても、中枢性鎮咳薬、ヒスタミンH1受容体拮抗薬、気管支拡張薬などへの有効性が診断基準の1項目になっている。その理由は、咳止めが適応となるこれら3つの咳症状は、いずれも症状の重なり合いがあって、固有の自他覚所見から、これら3つの病態を鑑別することが困難なことが一因となっている。言い換えれば、治療を目的とする咳止めの服薬が、診断的意味(診断的投与)を兼ねているといってもよいことになる。
したがって、服薬が適切であったかどうかの判断は、いずれの適応についても、軽症例に用いることを考慮に加えるならば、症状の軽快状況を慎重に見極めるために、3〜5日の服薬期間をおくことが妥当だといえる。つまり、相談者に適切と考えられる咳止めを推奨する段階で、継続使用の判断基準、あるいは医療機関の受診基準を示し、事前に理解・納得を得ることが必要である。
〔参考資料〕
1)日本咳嗽研究会ホームページhttp://netconf.eisai.co.jp/cough/index.html
2)OTC薬とセルフメディケーション−症状からの適剤探し−p.54-64. 金原出版,2009
2)OTC薬とセルフメディケーション−症状からの適剤探し−p.54-64. 金原出版,2009
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