2010年05月
学習のポイント
解熱鎮痛薬は、①頭痛・生理痛・歯痛・咽頭痛、②神経痛・腰痛、③筋肉痛・肩こり痛など炎症に伴う疼痛の寛解(かんかい)に使われる。本章では、これらの適応症の中から慢性頭痛を取り上げる。理由は2つあり、そのひとつは、頭痛は緊張型頭痛が20〜30%、偏頭痛が8%と有病率が高いこと、もうひとつは、日本神経学会から「慢性頭痛治療ガイドライン2002」が明らかにされ、頭痛のセルフメディケーションに大きなインパクトを与えつつあることを上げることができる。
本章には2人の慢性頭痛の相談者が登場する。一人は緊張型頭痛(Tension-type headache)と推定される相談者、もう一人は偏頭痛(Migraine)が強く疑われる相談者である。いずれについても、1)危険な頭痛の鑑別診断、2)慢性頭痛の簡易診断アルゴリズム、3)偏頭痛の簡易診断アルゴリズム、4)これら頭痛に対するOTC医薬品と漢方処方製剤の有用性を中心に学習を進めていく。主な出典を「慢性頭痛治療ガイドライン2002」(以下、慢性頭痛治療GLと略)に求め、必要に応じて周辺基礎知識を学習することにしたい。
検討事例:その三:慢性の緊張型頭痛の主婦
34歳女性:山田○○さん:昨年、念願の子宝に恵まれ、勤めていた会社も退職して専業主婦の暮らしが2年目に入っている。これまでは至って健康で、8年の勤続生活の中で有給休暇をとったこともなかった。ところが半年ほど前から、後頸部(こうけいぶ)に「はり」、「こり」を覚え、圧迫されるような頭痛が毎日のように続き、家事への負担も感じられるほどである。
9.3.薬剤師による慢性緊張型頭痛の聞き取り事例
薬剤師:今日は、お時間を少し頂いて、奥様の頭痛について、お聞きしたいと思います。
相談者:はい、どうぞ宜しくお願いします。
薬剤師:これまでの頭痛についてお尋ねます。質問は確認を含めて4つあります。
- 頭痛が気になり始めたのはいつごろからですか?
- 頭痛の起こり方は突然ですか?
- 頭痛のとき、「しびれ」、「痛み」などの症状(局所神経所見)はありますか?
- 嘔吐、圧痛、感染症、高血圧症、頭部を打つなどの状況はありますか?
薬剤師:なるほど。山田さん、心配な頭痛ではないようです。良いお薬を考えましょう。
(注6)4つの質問は慢性頭痛治療GLの危険な頭痛の簡易診断アルゴリズムに基づく質問で、相談者が脳血管障害などによる2次性頭痛、つまり、薬剤師がいう「心配な頭痛」ではないことを確認する重要なステップに相当する。OTC医薬品のお薬相談は、医療におけるプライマリケアに相当し、頭痛のケースでは、危険を知らせる警告症状を的確に捉える必要がある。2次性頭痛に対して、緊張型頭痛、偏頭痛は1次性頭痛と呼ばれることがある(図9-2)。
相談者:はい。
薬剤師:まず、頭痛は毎日のように感じるということですが、頭痛の記録はとっていますか?
相談者:はい。首筋の「はり」、「こり」は、毎日のように感じていますが、先月は保育園の入所の問題があったためか、1ヵ月のうち18日間も頭痛がありました。
相談者:なるほど。緊張したことが、影響しているかもしれませんね(図9-3)。
(注7)薬剤師は、この段階で、山田さんは緊張型頭痛のうち、慢性緊張型頭痛(chronic tension-type headache ;CTTH)の可能性が大きいこと、また、CTTHのなかでも、頭部筋群の異常(首筋の「はり」と「こり」)を伴うタイプであると推定している(図9-3)。
薬剤師:さて、1つ確認したいのですが、これまでの半年間、頭痛のくすりは使っていましたか?
相談者:はい。頭痛が気になり、家事にも乗り気になれないとき、この薬をのんでいます。
薬剤師:これですね!
相談者:はい。
(注8)山田さんは、そう言って、サリドンエースの添付文書を取り出した。サリドンエースは、1回量2錠中の配合成分が、エテンザミド500mg、アセトアミノフェン220mg、ブロモバレリル尿素200mg、無水カフェイン50mgである。薬剤師は、この段階で、1)頭痛が与えるQOLへの影響、2)解熱鎮痛薬の乱用・誤用の有無、3)サリドンエースの効果への満足度を聞きたいと考えている。
薬剤師:山田さん、いまサリドンエース以外に、何かお薬はのんでいますか?
相談者:いいえ、飲んでいません。
薬剤師:そうですか。ところで、コーヒー・紅茶、緑茶はお好きですか?
相談者:はい。紅茶が大好きで、1日に4〜6杯(1杯150mL)は飲みます。紅茶を頂いていると、そのあと気分が軽くなる気がしています。
薬剤師:家事に影響が出るとのことですが、お薬は週に何回くらい利用されていますか?
相談者:はい。週に1〜2回くらいでしょうか? なるべく、体操、リラグゼーションのためのストレッチなどに取り組んで、薬に頼るのは出来るだけ避けたいと考えています。
(注7)山田さんは薬に頼らない様子を誇らしげに話されている。しかし、薬剤師は、山田さんが紅茶党で、1日に4〜6杯も愛飲していることで、1日カフェイン摂取量は300mg〜450mgにも達していることを懸念している。しかし、嗜好飲料のカフェイン量は、種類や分量、抽出法(水の量・温度・時間)などの条件によって変動するので、正確に知ることは難しい(表9-5)。
相談者:いいえ、知りません。
薬剤師:紅茶100mL中のカフェインは50mg程度です。山田さんが1回に150mLの紅茶を飲みますと、1日4〜6回ですので、1日のカフェイン摂取量は300〜450mgにもなります。
相談者:・・・。カフェインと頭痛とは何か関係があるのでしょうか?
薬剤師:はい、カフェインと頭痛との間には、1つの不思議な事実が隠されています。カフェインは、解熱鎮痛薬のほかにかぜ薬、鼻炎治療薬に入っています。配合の理由に、頭痛の緩和があげられています。また、最近になりまして、カフェイン離脱性頭痛の診断基準が明らかにされ、山田さんの場合、この基準に抵触する懸念があります(表9-6)。
薬剤師:すこし、耳慣れない表現ですが、カフェインが含まれる嗜好飲料を愛飲している人が、何かの理由でその飲み物を飲まないでいると、カフェインが体から消えていくことで、頭痛が起きるというものです。
相談者:先生、それって病気なのでしょうか?
薬剤師:はい、山田さんがお考えの病気とは少し違うと思いますが、カフェイン離脱性頭痛の懸念があるときは、生活習慣を見直す必要があることを知らせる "からだからのメッセージ" と考えられるようになりました。
9.4.薬剤師による慢性緊張型頭痛の非薬物療法指導と適剤の選択指導
薬剤師:山田さん、それでは頭痛のセルフメディケーションについて、ご一緒に考えましょう。
相談者:はい、宜しくお願いします。
薬剤師:まず、山田さんの頭痛が、セルフメディケーションの範囲に入るかという問題ですが、1)頭痛の重症度、頻度の問題、サリドンエースの1ヵ月の服用回数(5〜8回)などから考えますと、セルフメディケーションの範囲に入ると考えてよいと思います。
相談者:はあ、そうですか。
薬剤師:山田さんの頭痛に対して、慢性頭痛治療GLでは、①急性期の治療(解熱鎮痛薬の頓服治療)、②慢性期治療に分けています。しかし、急性期と慢性期を厳密に区別することは難しい場合も多いのですが、実際には根気よく頭痛と付き合うようにし、日常的なストレス、運動不足、うつむき姿勢などに注意を払う必要があります(表9-7)。
相談者:なるほど。思い当たることはあります。
(注8)薬剤師は、ここで急性期の薬物療法と非薬物療法、慢性期の薬物療法の原則を「慢性頭痛治療GL」から示し、最後に、解熱鎮痛薬を配合成分の組合せからグループ分けして、適剤を見つけ出そうと考えている。
相談者:はい、ストレッチをやっています。
薬剤師:それでは、参考までにご説明しましょう。この運動は、主に�側頭筋、�胸鎖乳突筋、�僧帽筋をほぐして、脳の痛み刺激系に良いシグナルを送るストレッチ体操です。 運動の手順は、(1)足を肩幅位に開く。(2)両手を真っ直ぐ前に上げる。(3)体と一緒に手をお尻が見えるくらいまで後ろに回す。(4)反対側にも回す。この4ステップを1秒に1回くらいのゆっくりしたリズムで繰り返し、3分1セットくらいで、体が熱くならない程度に行うようにします。 薬剤師:山田さん、如何でしたか?
相談者:はい、私がやっていたストレッチ運動と少し違いますが、今度は、先生が教えてくださった頭痛予防体操に切り替えてやってみます。
薬剤師:どうか試してください。楽しみにしています。さて、つぎは本題となる頭痛薬(解熱鎮痛薬)の選択について考えましょう(表9-8)。
相談者:はい。
相談者:先生、サリドンエースは、4つの成分が入っているのでしたね。
薬剤師:そうです。グループDの特徴ですが、痛みが中等度で、炎症反応が症状に大きく影響していないケースに適しています。
相談者:そうしますと、正しい選択をしていたのですね!
薬剤師:はい、その通りです。しかし、少し厳しい見方をしますと、山田さんの場合、痛みの心因的要因を考えて配合されるブロムワレリル尿素、頭痛に対して補助的な作用をもつ無水カフェインは、必要がないとも言えそうです。しかし、少し、このままの薬で、様子をみましょう。
相談者:でも、このまま、同じ薬でよいでしょうか?
薬剤師:同じ薬で結構です。しかし、漫然と薬を使い続けて、乱用に陥ることは避けましょう。今日からは、日常生活に気を配り、薬に頼らないという山田さんの気持ちを強く持つようにし、セルフメディケーションを上手に進めましょう。
相談者:はい、分かりました。
検討事例:その四:慢性偏頭痛の会社員
40歳男性:高○洋○さん :昨年課長に昇進し、会社の業績向上と部下の育成に、これまで以上の努力を傾注している。宴席も多くなり、顧客訪問も増えて、社会的ストレスを感じるようになった。3ヵ月ほど前のこと、頸すじ・肩の張り、生あくびなどの症状が気になり、その後、強い頭痛に襲われるようになった。仕事への不安もあるので、親しくしている薬局の薬剤師のもとを訪問している。
9.5.薬剤師による偏頭痛の聞き取り事例
薬剤師:高○さん、早速ですが、頭痛にについてお尋ねします。
相談者:はい。
薬剤師:頭痛の前に気になる症状があったということですが?
相談者:はい、頸すじ・肩の張り、生あくびなどがあります。
(注9)偏頭痛は、1)目の前にチカチカと光が見えたり、星が見えたりする前兆(閃輝暗点(せんきあんてん))がある例、2)前兆はないがなんらかの前駆症状(頸すじ・肩の張り、生あくびなど)のある例、3)前兆も前駆症状もまったくない例、の3つに分類される。薬剤師は、高○さんのいう頭痛の前の違和感の訴えだけからでは頭痛の診断をすることは出来ないと感じている。そこで、高○さんに対して「偏頭痛の簡易診断アルゴリズム」に基づく質問をしている(図9-5)。
薬剤師:頭痛は、毎日ありますか?
相談者:いいえ。
薬剤師:頭痛は、片側だけにありますか?
相談者:いいえ。
薬剤師:頭痛によって、日常生活、お仕事に支障があるとお感じですか?
相談者:はい、正直に言いますと、あると思います。
(注10)薬剤師は、この段階で高○さんが気になっている頭痛は、偏頭痛でほぼ間違いないと感じている。偏頭痛の簡易診断アルゴリズムは、①毎日の頭痛、②片側性、③支障度、の3点について YES or NO の答えを誘導し、偏頭痛の臨床診断をしている。Pryse-Phllipsによれば、偏頭痛の簡易診断アルゴリズムによる臨床診断は、感度0.86、特異度0.73、陽性的中率0.96であったとしている10)。
9.6.薬剤師による偏頭痛の適剤選択の指導
薬剤師:高○さん、いま、何かお薬はのんでいますか?
相談者:いいえ。
薬剤師:高○さん、これまで、解熱鎮痛薬は飲んだ経験はありますか?
相談者:いいえ。
薬剤師:そうですか。それでは、高○さんへの推奨薬を申し上げましょう。2002年に日本神経学会から発表された慢性頭痛治療GLを参考にして、高○さんの頭痛にはエキセドリンA錠をお勧めしたいと思います。
相談者:どんな薬ですか?
(注11)薬剤師は、高○さんの頭痛は軽度の偏頭痛と判断し、成人1回量の2錠中にアスピリン500mg、アセトアミノフェン300mg、カフェイン120mgが配合されているエキセドリンA錠を推奨している。慢性頭痛治療GLでは、軽度の偏頭痛に対しては、アスピリン1回量として330〜660mgを推奨している。薬剤師は、エキセドリンAの推奨に当たり、添付文書「してはいけないこと」、「相談すること」の必用な事項の注意と、服薬後の副作用を疑う症状の変化について、十分な説明をしている。
薬剤師:高○さん、最後に大切なお約束をお願いしたいのですが、よろしいですか?
相談者:なんでしょう。
薬剤師:高○さんには心配がないと思ったのですが・・・。エキセドリンAの配合成分は3種類で、発作の回数と痛みの程度によって、1ヵ月の服薬回数が増えますと、あまりよくない状態として、薬によって頭痛が起きる恐れがあります。具体的には、1ヵ月の服薬回数が8〜9回、週平均で2回を超えないようにしましょう。
相談者:はい、分かりました。
(注12)国際頭痛分類第2版によれば、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)による薬物乱用頭痛は、NSAIDsの単独配合剤では3ヵ月以上にわたり15日/月以上、NSAIDsと複合薬物配合剤では10日/月以上服用を続ける場合とされている。したがって、偏頭痛の薬剤選択に当たって、軽度から中等症については、アセトアミノフェンあるいはアスピリンなどの単一成分配合薬を第一選択薬とすることが勧められる。
薬剤師:高○さん、最後に、偏頭痛を含む慢性頭痛の予防と急性期の治療に使われる漢方処方製剤について、紹介しておきましょう。
相談者:漢方処方製剤には、どのような製品があるのですか?
薬剤師:呉茱萸(ごしゅゆ)湯(とう)、釣(ちょう)藤散(とうさん)などがあります。呉茱萸湯エキス顆粒の服用回数は1日3回ですが、1日量に呉茱萸湯エキス1000mg(ゴシュユ3g,ニンジン2g,タイソウ4g,ショウキョウ1gより抽出)が含まれています。呉茱萸湯は漢方の古典といわれる中国の医書「傷寒論」「金匱要略」に収載されている伝統的な漢方処方製剤で、みぞおちが膨満して手足が冷える人の頭痛、頭痛に伴う「吐き気」、「しゃっくり」に効果があります。
相談者:漢方処方製剤は、長い期間のむと聞きましたが・・・。
薬剤師:呉茱萸湯の効果を判断する服薬期間は、「慢性頭痛に対する呉茱萸湯の効果:レスポンダー限定多施設無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験」の中に示されています。この比較試験の前の段階では呉茱萸湯の効果があるひと(レスポンダー)を決めていますが、呉茱萸湯の服薬期間として1ヵ月とっています。そのあと1ヵ月の休薬期間をとり、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の段階では、偽薬群と実薬群に分け、3ヵ月間服用させて効果判定しています。
相談者:効き目はあったのでしょうか?
薬剤師:本物の薬(実(じつ)薬(やく))をのんでいた群では4週間あたりの頭痛の回数が12.9回から10.3回(p =0.01) へ減少し、実薬群で有意差を認めています。
薬剤師:高○さんの頭痛に適している可能性がありますね。今日はお勧めしたエキセドリンAについて、ご注意したことを守って頂き、何か疑問なこと、困ったことなどがありましたら、ご遠慮なくご来店ください。しばらく、このお薬で、様子をみましょう。
相談者:はい、有難うございます。
6)科学技術庁:五訂日本食品標準成分表
7)国際頭痛分類第2版(ICHD-II)第2部 二次性頭痛 物質またはその離脱による頭痛 8.4.1.カフェイン離脱頭痛p.113, 2004より引用改変
8)日本頭痛学会:慢性頭痛治療ガイドライン/III-5緊張型頭痛はどのように行うか p.170、III-6緊張型頭痛の急性期治療 p.173、III-7緊張型頭痛の予防療法p.177より引用改変
10)宮田満男他:OTC薬とセルフメディケーション/解熱鎮痛薬の適剤探し p72,金原出版 2009
|
|
|
医療・健康情報グループ検索






