「話す」ことも「聞く」ことも、日常的に全ての人がやっていることです。しかし、お客様の話の中から本当に必要な情報を引き出し、薬選びをしていくために、重要なポイントをみつけていくことは難しいことです。
同じ症状でも、年齢・性別・体質・現在の病気や併用薬・過去の病歴・アレルギー歴・家族構成・生活環境によっても問題の『視点』が変わります。
お客様の最初の話に主訴がある場合もありますが、話をしていくうちに『これが問題だったんだ』と自分で気がつく場合があります。まずは、セルフメディケーションの支援をしていく為にお客様がたくさん話をしていただけるような効果的なコミュニケーション法を身に付けましょう。
(1)効果的な聴きかた〜お客様の気持ちをひきつける
人は思っている通りにはなかなか表現できません。特に、ネガティブな意識は閉じ込めている事が多いものです。お客様の心を開いて話をしていただくためには、どのようにして聴いていったらよいのでしょうか。
人は否定されることなく、気持ちをわかってもらえて受け入れてもらえると、この人に話したいという意欲が湧いてきます。そして、安心して、閉じ込められた意識も出せるようになります。
話を否定しないで、次の4つの基本的なスキルを使って聴いていきましょう。
1)観察
お客様の話の全てが大事なポイントではありません。気持ちの現れているところを言語的と非言語的に観察して、そこに焦点を当てながら聴いていくとよいです。言動の背後には感情があり、意味があります。両方が一致したところには重要な情報が隠れています。
①観察のポイント
<言語的表現(キーワード)>
こう思う、こう感じる、絶対に!など強い思い(気持ち)が入っています。
- (不安、つらい、苦しい、悲しい、嬉しいなど)
- 気持ち(大変だ、どうしたらいいのかわからないなど)、
- セリフ調のところ「気になったんだけどさぁ〜」など
- 独特の言い回し「ズキっときた」など
そこには、気持ちが隠れているので、話を深めて聴いていくと良いです。
<非言語的表現(キーメッセージ)>
意識でコントロールできない感情が出てくる。
①外部観察
- 目:輝く、泳ぐ、潤む、怒る、凝視する、遠くを見る
- 顔:曇る、明るくなる、表情が止まる、
- 声:声の調子、トーンが変わる、うわずった声、浮いた声、震える
- ジェスチャー:身振り、手振り、顔の変化、オーバーアクション
- 身体姿勢の変化:前のめりになる、後ろに引く、下を向く、そわそわする、態度、距離、
向き、話の間、うなずき、
②内部観察
言い方によって響き方が違う。
などがあるところは重要な話をしている事が多いので、話を聴きながら観察しているとポイントを捉えやすいです。
2)傾聴
お客様の話は心を空っぽにして、集中して聴きましょう。自分に話すように、「間をおく」「うなづく」「顔や目の表情で聴いていることを伝え、相手の感情を受け止めようとして聴く」「どんなことでも、自由に話してください」という無言のメッセージを送りながら、例え、話が違う方向にいっても、お客様の気持ちや感情を受け止め、寄り添って聴いていきましょう。
しかし、実際はお客様の話を聴きながら、自分の中にいろいろな現象が起こってきます。
相手の外観や態度、表情などに捉われて、勝手なイメージを作り上げてしまったり、そんなこといっていてはダメですよとつい怒りたくなったり、不安になったり、などと自分の中での勝手な思いが邪魔して話を聴くのを妨げてしまいます。
それを「ブロッキング」といいます。自分の心の中におこってくる全ての現象です。
例)
「あぁ、そうじゃなくて、HbA1cは・・」
「本当は薬を飲んでないんじゃないの?」
「それはゼッタイに食べすぎだよ」「そういえば、お腹がすいたな」
「話長いなぁ」「あっ、頼まれてた仕事やってない」
<ブロッキング対処法>
- その思いに気づき、「ブロッキング」を脇におき、まずは聴く。
- 主観的な判断ではなく、客観的な事実に基づいた判断をすること。
<医療従事者に多いブロッキング例>
- お客様が何を求めているかを把握しないで、一方的にガイダンスをする。
- 指導的な立場で、上から目線で話をする。
- 医学的・薬学的な価値観を押し付けたくなる。
- 一般的な医学的常識に基づいた思い込みや勝手な解釈や憶測で話をする。
- 興味や関心のあることには質問したくなる。
- 自分が正しいと思う方向に誘導したくなる。
- 治療への意欲が少ないと思うと話す気がなくなる。
- 間違った考えや行動をしていると意見を言ったり怒りたくなる。
例)「眠れないんです」という訴えに対して
思い込み: | 悩みとかあるとイライラして眠れないんですよね。 |
解釈: | 高齢になると皆、眠れないんですよ。 |
憶測: | 昼間寝てるからねられないんじゃないの? |
意見: | 本当に眠くなるまで起きていれば自然と眠くなるでしょ。 |
アドバイス: | 眠れなかったら無理に寝ようとしないで、起きてテレビでもみればいいんですよ。 |
質問: | 何時に寝て何時に起きるんですか? |
追体験: | 私も良く眠れないことあるんです。翌日にひびきますよね。 |
感情: | 私なんか仕事がたくさんあって寝たいのに寝られないんです、羨ましいですよ。 |
指導: | 睡眠導入剤を処方してもらって寝たらいいですよ。 |
<傾聴的な対応>
販売員: | 眠れないんですね。眠れないなぁと思う時はどんな気持ちがありますか? |
お客様: | 布団に入って寝ようとすると手のしびれがあるんです。気にすると余計に痛みがきて、眠れなくなるんです。 |
販売員: | そうですか、それで眠れなくなるんですね。そこには、どんなお気持ちがありますか? |
お客様: | 原因かわからないし、もしかして、悪い病気じゃないかと思ったりして、不安になりますね。 |
3)確認:効果的に繰り返す
お客様の話は、漠然としていて、本当に話したいことを話しているとは限りません。そこで、お客様の話を理解して、気持ちが分かり合えるために、次の技法を使い深めていきましょう。
<事柄の明確化>
- 話の内容や状況が理解できないとそれがブロッキングになりその後の話を聴く事ができなくなる。
- 次のように、率直に聞く。
「そこの内容がちょっと理解できないんですけど、もう少し具体的に説明してもらってもいいですか?」
<効果的促し>
話が止まった時、次の話を促します。
- 相手が最後に行った言葉を繰り返す。
「やってみようと思ったんだけど」=「思ったんだけど?」
- しばらく待って「それから?」「そのことについて、もう少し詳しく教えてもらってもいいですか?
- うなづきながら、受容的な視線を向ける=「なるほど」「う〜ん」
<気持ちの明確化>
- 話の内容には事柄ばかりが出てくる事がある。
- お客様自身も本当は何がいいたいのかがわからなくなってくる。
- 事柄の奥に気持ちが隠れていることがある。
- 「そこにどんな気持ちがありますか?」と聴く。
- 事柄や気持ちは、主観か客観かを見極める事が大切です。
<効果的な繰り返し>
- キーワード・キーメッセージのところには、本当に言いたいことが隠れている。
- そこを捉えて繰り返す。
- 気づきが深まり、次に話したい内容が明確になる。
- 話を聴いてもらえていると思える。
<要約>
- 長い話をポイントごとにまとめる。
「こんな事をお話されたんですね」
「私はこのようにお聴きしましたがいかがですか?」とお客様に返す。
<ミラーリング効果>
- 話を整理して繰り返し、それを鏡のように確認してもらう。
- お客様に気持ちや要求を自覚化させる効果がある。
「そうか、こんな事がいいたかったのかぁ」
「そうだ、こんな気持ちがあったんだ」と気がつきます。
- そして、ちゃんと聴いてくれていたんだと安心感を持つ。
<テーラーリング>
- 繰り返す時はお客様の表情や反応を確認することが大切。
「まあ」とか「そんな感じです」という言い方、
「えっ?」という表情や一瞬暗い表情があったら、
「違っていましたか?」と聴いてみる。
そして、ぴたっと合うところまで、話を修正していきます。
- 自分の話が伝わっているなと思うと、いきいきと明るく、嬉しそうな表情になります。
4)共感
自分の言いたい事を受け入れてもらって、「わかって欲しい」という気持ちを受容してもらえると、今度は自分を客観的に見る事が出来、自分の本当の気持ちに焦点が向いていきます。そして、今、解決しなければならない問題に気づくことができます。「本当はどうしたらいいのか?」という行動目標が見えてきて、解決への道を進むことが出来ます。
☆次に同情と同感と共感の違いをあげます。
①同情:「かわいそうに」「何とかしてあげたい」
- お客様の話に同情して、そう思うのは、大変素晴らしいこと。
- でも、それは、「自分の気持ち」。
- 話を聴く際には「ブロッキング」になります。
②同感:「私もそう思う」
- 同感されると嬉しいもの。
- しかしこれも「自分の気持ち」で「ブロッキング」。
- お客様は同感されるように話を持っていってしまうかもしれない。
- そして、自分の価値感と同じでないと同感は出来ない。
- 話の内容によっては「私はそう思わない」になってしまう。
③共感:「お客様の感情をそのまま感じる」
- お客様の状況や気持ちをそのまま自分の中にイメージし、それを表現する。
<共感の効果>
- 共感には安心して、心を開く効果がある。
- 「本当にわかってもらえた〜」と感じる大きな癒し効果がある。
- お客様は心から信頼し、安心していろいろな話をしてくださる。
- お客様ご自身のセルフメディケーションへの行動目標が見えてくる。
<共感的励まし>
自分が感動したところ、関心したところ、心がジーンとしたところを伝える。直感でひらめいたプラス思考の支援の言葉を伝える。
1. 循環気質のお客様には
- 話したい事をたくさん聴きましょう。
- キーワードやキーメッセージは捉えやすいです。
- 話の途中で効果的に要約し、必ず確認しましょう。
- テーラリングが必要な事があります。
- 発言はそのまま受け取らず、割り引いて聞く事が必要です。
- ポイントで繰り返し、共感的に聴いていくと本音の話を聴く事が出来ます。
- 反応は迅速に、良いところを誉めましょう。
自分の気質を踏まえた対応
①循環気質の場合
- カジュアルな楽しい会話が出来ます。
- しかし、誇張が過ぎるとお互いに矛盾が生じます。
- 相手の気持ちや感情を捉えて、話を聴くとよいです。
②粘着気質の場合
- カジュアルな雰囲気で話す人の言動は、失礼に聴こえるかもしれません。
- 話すスピードや展開が速すぎると感じます。
- 相手に、もう少しゆっくり話してくれるように伝えるとよいです。
- メモを取らせてもらうと良い。
③自閉気質の場合
- 気質により価値観が全く違うので、話に矛盾を感じるかもしれません。
- 肩の力を抜いて、ポイントを捉えて聴きましょう。
- 話は割り引いて、重要なことは念のため、メモを取っておくとよいです。
2. 粘着気質のお客様には
- ゆっくりと対応しましょう。
- 効果的に沈黙して、ゆっくりと話を促しながら、聴きましょう。
- 筋を通して、上手に立ててじっくりと話を聴きましょう。
- 非言語のメッセージを良く観察し、失礼の無いように対応しましょう。
- 相手が察するべきと思っているので、自分の思いや考えを自分から話そうとはしません。
- わからないことはこちらから積極的に確認しましょう。
- 質問するときは、ゆっくり時間を取れるように配慮しましょう。
- 必要なことは、メモを書いて渡すと良いでしょう。
- 一度信頼関係が出来ると長く続きます。
自分の気質を踏まえた対応
①循環気質の場合
- 会話にスピードに差があるため、イライラする事がありますが、テンポをゆっくり合わせましょう。
- 堅苦しくて、楽しい会話でないと思うでしょうが、礼儀正しく、真摯な態度で接しましょう。
②粘着気質の場合
- お互いにじっくりと話をする事が出来ますが時間がかかるので、パンフレットを渡すなど、工夫しましょう。
③自閉気質の場合
- 言葉に出して、誠実に相手を上手に立てて話を聴きましょう。
3. 自閉気質のお客様には
- 発現する時は、慎重に言葉を選びましょう。
- 表情に表さないので、気持ちを聴きながら対応しましょう。
- 嫌なことは取りあえず、断るように促します。
- 本人の意思や気持ちを尊重して自分で選んでもらうように対応します。
自分の気質を踏まえた対応
①循環気質の場合
- 会話のペースがかなり違います。相手が話し出すのを待つ事が必要です。
- 周りに合わせることはなく自分の世界を大切にするので、価値感の違いがあります。それを意識して対応しましょう。
- 感受性が強く、社交辞令に気づきやすいので、本音で付き合う事が大切です。
②粘着気質の場合
- 自分の世界を大切にする為、何を言おうとマイペースを続けるので、生意気に思えるかもしれません。
- 相手の世界を尊重して聴きましょう。
③自閉気質の場合
- お互いに本心で話す事が出来ます。
- 双方とも口数が少ないので、意識的に口に出して表現し、確認しあう事が大切です。
- お互いに自分の世界があり、同調しない傾向があるので、相手の世界も尊重して話を聴きましょう。
『今回のまとめ』
4つの基本的なコミュニケーションスキルを使ってお客様の話を聴いていくことで、お客様の気づきを促し、セルフメディケーションへの行動目標が見えてきます。自分の『ブロッキングリスト』を作ってみると聴きかたの癖を見つける事が出来ます。気質別に対応する事が出来るとお客様との距離がより一層近づいてきます。皆様のご活躍をお祈りしております。