セルフメディケーション税制
2. かぜやせき、のどの症状

 前回花粉症に関連する症状に対してのセルフメディケーションの取組みについて解説しましたが、今回は「かぜ」をとりあげます。症状は花粉症と共通することが多いのですが、取組みにあたって大事なことがあります。

 「花粉症」は文字どおり、花粉やハウスダストなどアレルゲンという物質が原因となって過敏な反応が起きます。原因物質は特定または推定されることがありますが、不明な場合もあります。「かぜ」といわれる症状は季節変動による環境温度変化に身体機能が対応できない場合と、ウイルスなど微生物の侵襲によって起こる場合があります。どちらも発熱、頭痛、くしゃみ、せき、たんなど呼吸器官の不快症状が発現しますが、一様でないので厄介です。

 ウイルス感染の中でインフルエンザウイルスは遺伝子変異によって型が替わり、流行年によっては重篤化し死者も出る脅威となります。かぜの予防には体力強化といわれ、その効果はありますが、毎年ほぼ一定の割合で罹る方はいます。インフルエンザワクチンの予防接種が実施されていますが、変異する型を予測するのは難しく万全とはいえません。

 ではどう対応するかですが、症状をみきわめながら、早め早めの対応をとることです。高熱はウイルスなど微生物の高温耐性が低いため、生体防御機能のひとつが発揮されているのです。続くならば解熱薬に頼らず医療機関受診に切り替えましょう。

 通常の「かぜ」ならば、2~3日から1週間程度で回復しますから、不快症状を緩和するくすりを服用しながら休養し、消化のよい食事をとって身体機能の回復を待ちましょう。体力衰弱の状態では炎症の残る呼吸器官、消化器官は微生物の絶好標的になりますから、感染症への監視、警戒も怠らないでください。 
2-1 かぜ薬の成分−解熱、抗炎症
 表1 かぜおよび関連する症状の緩和を目的としたスイッチ化された成分
注1 2成分が配合されていると公表された製剤の総計
注2  添付文書が不明で適用確認できない1製剤を含む
別項で説明は次回鎮痛薬・抗炎症薬の項での説明を指します。
なお現在ロキソプロフェンが配合されているかぜくすりはありません
 かぜ薬はかぜに伴う症状の緩和を目的とした対症療法で、原因を治すものではありません。かぜの症状は発熱、のどの痛み、はなみず、せき・たんなどアレルギー症状、さらに筋肉痛、関節痛など多彩で一律ではありません。一般的には解熱、鎮痛、鎮咳、去痰、抗炎症の作用を有する成分を複数配合した複合剤が主流で「総合感冒薬」(では「かぜくすり」)と呼ばれています。単味のものは鎮痛薬、抗炎症薬(次回に解説)、鎮咳・去痰薬などと称されています。まれに貼付する外用がありますが、内服が圧倒的に多く、剤型は錠剤、カプセル、顆粒、さらに幼児向けのシロップなどがあり、多彩です。

 成分としては解熱鎮痛作用を有するアセトアミノフェンが世界的に多く使われていますが、スイッチOTC薬ではありません。高熱時は苦しいので、使用するのはいいのですが、ウイルスの侵襲による場合などは、ウイルスが高温では増殖できないため、生体が体温上昇させ自己防衛していることも考えましょう。

 イブプロフェン、ロキソプロフェンは非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)に属し、炎症に伴う解熱、鎮痛、腫れなどを抑える効果を持つスィッチOTC医薬品です。それぞれ単味成分としても販売されていますが、かぜ薬としてイブプロフェンが配合されている製品があります。非ステロイドとは文字通りステロイドではないという意味で、炎症に対して優れた効果を有するステロイドに匹敵する効果を有し、ステロイド系の欠陥である習慣性が少ない利点を持ち、医療用としての実績を背景にスイッチ化されました。

2-2 かぜ薬の成分−鎮咳・去痰
 かぜは上気道器官の炎症でせきとたんが象徴的に増えます。せきを抑える効果を持つのはリン酸コデインに代表されるせきの起きる中枢を抑える麻薬性のものと、やや作用の弱いデキストロメトルファン、ジメモルファンリン酸塩などの非麻薬性鎮咳薬が医療用として使用されています。

 去痰薬はたんや鼻水の粘度の高い分泌物に直接働きかけて、粘性を下げて排出し易くします。アンブロキソール、カルボシステイン、ブロムヘキシンなどが医療用として汎用されてきましたが3成分ともスイッチ化されています。いずれの成分も医療用では単味製剤ですが、一般用では他の抗炎症成分や同系の2剤以上を組合わせた製剤が多いのが目立ちます。

 表1に示すようにアンブロキソールはムコソルバンという医療用の先発品名が普及していますが、後発品を含めると68の商品名(製造販売名)が登録されていて、流通を含め実態についてわからない点があります。一方、一般用では10種の「かぜ薬」にこの成分を含むものがあります。しかし、いずれの製剤もイブプロフェンやカルボシステインなどの成分が一緒に配合されています。また、解熱や抗ヒスタミンの作用を有するかぜに伴う症状を抑える成分が配合されています。商品によって含まれる他の配合剤は一律ではありません。

 カルボシステインはムコダインという医療用の先発名が普及していますが26の商品名があります。一般用は23あり、「かぜくすり」として使用される場合はアセトアミノフェンなどの解熱作用を有する成分を配合しています。この2成分に解熱作用や抗炎症作用のある成分を加えて「かぜくすり」としている製剤が3種あります。カルボシステインはかぜで熱が下がった後に残るたんやそれに伴うせきに有効な成分です。

 ブロムヘキシンは医療用として注射薬もあり、ビソルボンという先発名が普及していますがこの成分を含む一般用医薬品は多い上、カルボシステインやイブプロフェンなどとの配合が多く、厚労省公表の品目数と一致しない点があります。当協議会調査では約50種の「かぜ薬」がこの成分を含んでいますが、個々の解説は困難です。表の数字は目安としてください。

2-3 せき・たんを抑える薬
 せき・たんを抑えるのを主目的とし、去痰薬、鎮咳去痰薬と記されている製剤です。カルボシステインに鎮咳作用を有するジヒドロコデインリン酸塩を配合した製剤は「鎮咳・去痰薬」ですが、効能や名称に咳止めを明示しているのででは「せき・たん」と記載し、8種あります。カルボシステインとブロムヘキシンのみを配合した製剤は「鎮咳・去痰薬」(表では「たんや咳」)と効能を明示しました。これも8種あります。

 かぜの後せき・たんが続く場合、カルボシステインとブロムヘキシンのスイッチOTC医薬品2成分のみを配合した製剤は医療用単味製剤を2種使うより効果的でしょう。せきについては非麻薬性のデキストロメトルファン、ノスカピン、チペピジンなどが医療用として、また一般用として「かぜ薬」に配合されています。

 今回の税控除対象となるのは、ジメモルファン+ブロムヘキシンのみで「せき・たん」と明示されています。かぜ薬には該当する製剤はありません。同じせきといっても喘息によるせきには注意が必要です。喘鳴がひどいときやしつこいせきが続く場合などは気管支炎(上部気道炎)などが疑われるので医療機関受診を勧めます。

2-4 かぜ薬の成分―その他の成分
 かぜの症状は体力を消耗するので滋養補給としてビタミン類や漢方薬成分を配合している製剤がありますが、補助的な意味はあっても直接な効果は期待できません。これらの成分でスイッチOTCに該当するものはありません。

2-5 かぜに伴う後遺症について
 かぜの原因は様々であると申しました。確かに花粉症など原因のある疾患もありますが、寒冷すなわち季節によって生じる温度差による生体反応−俗にいう寒冷アレルギーもかぜの原因という説もあります。かぜの原因はさまざまであって、原因を特定してそれを排除する方法を適用するのは無理があります。体力、抵抗力をつけて予防に心がけることは大切ですが、かかってしまうことはあります。

 かぜが侵食している期間体力消耗を防ぐよう、温度、湿度を調整した部屋で休息し、消化のよい食事をとるようにしましょう。水分とビタミン類の補給は万全にしてください。このようなときにはスイッチOTC薬ではありませんが滋養強壮ドリンク剤、経口保水液を使うのは効果的です。

2-6 注意点と提言
(1) 注意する点

 各項目ですでに指摘いたしましたが、かぜに対する治療薬はありません。症状の緩和を目的とする対症療法であることを再確認してください。状況、人によって「かぜ」のイメージは違いますが、特に最初は悪寒、熱っぽいという感覚が強く、多くの「かぜくすり」はアセトアミノフェン、エテンザミドなどの非ピリン系解熱成分を主体としていますが、これはスイッチOTCではありません。

 総合感冒薬や鎮咳・去痰薬に配合されているスイッチ化成分はいわば有能な脇役です。スイッチOTC成分があるか否か、税制控除の対象かどうかで薬を選ぶのは間違いです。かぜの初期なのか、症状はどうか、まだせきやたんが続いているかなどをきちんと薬剤師に伝えれば、適切な製剤を勧めてくれるでしょう。客の知識が上がれば薬剤師も勉強して対応します。お互いの信頼関係を作ることが大事なのです。

 をみてもイブプロフェン配合としているかぜくすりは50種以上もありますが、どれにもスイッチ化されていない鎮咳、去痰成分など複数の成分が配合されています。症状を的確に把握しないかぎり、どの製品を使うかアドバイスが難しいのです。

(2) 改善への提言

 お気づきになったと思いますが、かぜ薬や鎮咳去痰薬についていかにたくさんの種類があるかということです。そして、複雑に、混乱させているのは基本的なことを伝えず、「〇〇〇を配合」、「(今年の)かぜに新∆∆∆」、「□□□の症状には」といったキャッチコピーの羅列です。スイッチ成分配合―税制控除の対象などは選択の際の評価に関係ありません。セルフメディケーションとしてかぜ薬は全ての人が経験する実践の基本です。それならばスイッチ成分の有無にかかわらず全ての総合感冒薬、鎮咳去痰薬を税制控除の対象にすることを提案します。 .

一般の皆様へ:成分名や効能・効果について不明な点は薬局の薬剤師におたずねください。

薬局・薬剤師の方へ:患者、一般の方からの個別の商品名や配合成分についてのおたずねは、医薬品集などで検索しお答えください。当協議会会員の薬剤師の方へはスイッチ化成分を含む製品について情報提供いたしますので事務局へご連絡ください。

2017年03月 更新