セルフメディケーション税制
4. おなかの不具合の症状

 おなかの具合についてみなさんはどのように感じていますか。不具合といってもひとりひとり様々ですし、またいつも同じ不具合ではありませんね。おなかが痛いといっても、まず部位が胃のあたりか、腹部なのかで違います。下腹部の不具合も下痢しそうなのか、便が溜まって苦しいのかで対応が真逆になります。

 おなかの不具合は消化器官系臓器の疾患によるものです。消化管は身体の内部にあるように思えますが、実は外部と通じているので外部環境の影響を受けます。

 臓器機能を調整しているのは自律神経系で、ここの自律機能に乱れが生じると不具合が顕れてきます。摂取食物が汚染や腐敗していると環境破壊が生じます。最初に受け止める胃はそのため強い酸を分泌して殺菌する防御が任務ですが、限界を超えると下腹部に影響します。暴飲暴食がいけないのも当然です。

 外部から侵入するものは微生物、特にウイルスは増殖力が強く、胃の防衛能力を超えると「感染」という非常事態になります。調理法や手洗いの励行によってリスク回避がかかせません。いったん感染が疑われたらセルフメディケーションで治療はできません。医療機関の診断により、的確な抗生物質などの治療を受けてください。スイッチOTCを含め一般薬に抗生物質はありません。また放置すると感染の拡大を招きます。判断は止まらない下痢と発熱を伴うことが目安としてください。

 臓器機能を制御する自律神経系は交感神経と副交感神経が車のアクセルとブレーキのように働いています。胃液の分泌が盛んになりすぎると、胃痛やむかつきになります。一次的に止めるのは症状の緩和になりますが、続けると殺菌などが機能不全の状態となり危ないことになります。

 食物は胃を通過するとどろどろの液状で十二指腸、小腸、大腸、直腸を通過して栄養分を吸収され、残滓は糞便とし排泄されます。消化には身体から分泌される様々な酵素を含む分泌液とともに腸内に共存する大腸菌類縁菌の関与が大きいことがわかってきました。腸内フローラ―お花畑のようなよい環境ができるとおなかの状態は理想的といわれます。フローラの移植など話題になっていますが、セルフメディケーションでは食事習慣を正しくすることを心がけ、薬を上手に使うヒントを以下に述べていきます。
4-1 胃に関連する症状と薬
表1 胃の痙攣、痛みの症状に対応するスイッチOTC薬
表2 胃粘膜保護による胃炎、潰瘍の防止を目的とするスイッチOTC薬
表3 胃酸分泌を止めるH2受容体拮抗剤のスイッチ化された成分
表4 排便に関連する症状に対するスイッチOTC薬
注1 単味製剤と類似薬効成分配合の合剤がある。0.5mgと1mgの2規格がある。
注2 単味製剤と類似薬効成分配合の合剤がある。
 口で咀嚼された食べ物は食道を経て胃に入ります。胃は非常に敏感な器官で身体に危険な物が入ると反射的に嘔吐という形で排除しようとします。受け入れた食物は分泌される胃液により消化作業が始まります。

 胃液は強い酸とたんぱく質を分解するペプシンという酵素が主体です。胃液分泌が強すぎると胃壁自身を分解し、激しい痛みや潰瘍が起きます。症状として胃痙攣、胃痛などですが潰瘍はときに胃壁から大量の出血が起きるまで自覚されないことがありますので要注意です。このような症状を抑えるには基本的に2つの方法があります。

 ひとつは攻撃的な酸分泌を抑制すること、もうひとつは胃壁を防御することです。

(1) 胃液分泌を抑制する成分をもつ薬剤

 胃液の分泌を抑えるムスカリン受容体拮抗薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、さらにプロトンポンプ阻害薬などが医療用として胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎に使われています。

 胃壁はかなり酸に強い組織ですが、胃液が過多になると食道を逆流して、むかつきやげっぷが出ます。食道は本来胃のように強酸に備えた器官ではないので、胃液の逆流は壊滅的打撃となり大量の出血が起きるリスクがあります。プロトンポンプ阻害剤は最も強力ですが、スイッチ化はされていません。

 ヒスタミンH2受容体拮抗剤にはスイッチ化されたものがあり、ニサチジンファモチジンロキサチジン酢酸エステルの3成分です。酸を抑えることは食物の殺菌などが停止し感染のリスクが高くなり、消化の抑制になりますので、慎重に使用しなければいけません。砧爐簍彁悗忙慊蠅気譟∋藩儡間にも制限があるのはこの理由からです。

 ファモチジンは1997年にスイッチ化され、医療用と名称が同じ、急性胃炎の適用として用量・用法も同じという画期的なスイッチOTC薬です。現在9製剤が一般用として販売されています。1剤の成分量は10mg、用法を正しく守ることが大切です。

 ニサチジンは一般用として、ロキサチジン酢酸エステルは1製剤が販売されています。なお、他のヒスタミンH2受容体拮抗剤はスイッチ化されていないか、されたものもありますが表記載以外一般薬としては販売されていません。

 ムスカリン受容体拮抗薬は副交感神経の刺激に介在し、これを抑制して胃酸分泌を抑えます。チキジウムピレンゼピンが該当し、スイッチ化されています。チキジウムは1剤で単味、効能・効果を胃痛、さしこみなどの症状を対象としています。ピレンゼピンは医療用では注射剤があり、上部消化管の出血に適用され、内用は胃炎、潰瘍が適用です。スイッチ化された同成分を含む一般用4製剤はいずれも他の中和・制酸剤(後述)との配合剤でピレンゼピンの量は医療用の約半量で食べすきなどの「胃腸薬」としての扱いです。

 胃は痛みにも敏感に反応し、さしこむような激痛を伴う痙攣状態が起きることがあります。副交感神経の働きを抑える抗コリン薬も胃腸の痛みを和らげ、胃液分泌を抑制するので複数の成分が使用されています。ただし、作用は胃腸の他にも及ぶので緑内障や前立腺に疾患がある方はさけなければなりません。

 スイッチ化されているのは前章でも紹介したブチルスコポラミンのみですが、スイッチ化以外の成分にも注意してください。なお、痛みを和らげる目的では局麻効果を有するオキセサゼイン、がスイッチ化されています。

(2) 胃の粘膜を保護する成分をもつ薬

 胃の内側を覆う粘膜が荒れた状態になったとき、防御態勢を強化して胃を守ることを目的としている薬です。酸を中和しようとする方法と胃壁を酸による侵襲に耐えるよう強化する方法があります。中和には弱アルカリとして炭酸水素ナトリウム(重曹)が昔から使用されていて、現在も医療用、一般用に単味や合剤があります。

 制酸薬として汎用されているのは乾燥水酸化アルミニウムゲルという薬剤で、胃酸を中和するほか被膜をつくり胃粘膜のただれを修復し、潰瘍に進むのを防ぎます。これらの成分は胃薬の他に抗炎症成分を含むかぜ薬や鎮痛・消炎剤に胃壁を保護する目的で配合されている一般薬も多く販売されています。いずれもスイッチOTC成分ではありません。

 胃壁を保護する胃粘膜保護薬と称され、表では効能・効果を胃炎・(消化性)潰瘍(治療)としています。表1-2に代表的な成分名をあげました。セトラキサートゲファルナートトリメブチンソファルコンテプレノントロキシピドがスイッチOTC薬です。

 医療用は全て単味の内用薬で胃炎などが悪化した場合など粘膜の病変を回復する治療を目的としています。一般薬はいずれもスイッチ化成分に制酸薬や生薬抽出成分などを加えた配合剤です。数はそれほど多くはないですが、個々の説明は薬局でたずねてください。

4-2 腸に関連する症状と薬
 胃から噴門という出口を経て食物はどろどろになって十二指腸、小腸、大腸を流動していきます。強い酸性から分泌液により徐々に中性から微アルカリ性に変化します。消化に関与する酵素が活動しやすくなります。腸の病変は様々ですが、大きく分けると感染または中毒性のものと消化不全に分けられます。前者は細菌、ウイルスなどが上部消化器官の防御体制をすりぬけて増殖に転じたことによります。また、腐敗などで食物に毒素などが含まれていた場合も限度をこえると腹痛、下痢、発熱などの症状が顕れます。

 腸管は吸収器官ですからこれらの有害微生物、有害物質が腸壁から身体内部に侵入し、血液循環に入ると非常事態になります。対策には抗生物質製剤など化学療法により微生物を駆逐するか、その前に毒素など原因物質を強制的に排除するかです。いずれもセルフメディケーションの領域をこえていますから、医療機関受診―救急診断を要します。

 実際の日常においては食べ過ぎ、飲みすぎでおなかを壊すといった症状は誰もが経験しますし、家族や仲間で同じ食事をしても具合が悪いと訴える方が出ることもあります。本人自身も間がわるく下痢したり、便秘が続くことはあり、そのたびに医療機関に行くのは厄介でしょう。判断の見極めはある程度経験が役立ち、家族や年配者の話も参考になります。発熱、激痛、水様便、耐えられない気分の悪さを勘案しましょう。

 消化不全についてはセルフメディケーションにより回復、正常化が期待できます。量が多すぎて自身の分泌する酵素では消化できない状態ですので消化酵素剤を補給します。食物成分の糖質、タンパク質、脂肪を分解するためです。最初にふれたように腸内には種々の大腸菌が共存していて消化を助けていますが、腸内細菌叢に乱れがあると消化に影響しますので乳酸菌(ラクトミン)、酪酸菌などを援軍として補給します。

 胃腸科をはじめ内科医が処方する医療用製剤にはジアスターゼ、パンクレアチン、リパーゼなどが配合されています。乳酸菌、ビフィズス菌なども医療用製剤として処方されています。これらは一般用として「〇〇〇整腸薬」という名称で販売されています。多くはリスク分類でIIまたはIIIで、部外品もあります。さらに、乳酸菌は生菌が食品としても扱われています。

 酵素は本来天然物で濃度(純度)により効果に差が出るのは当然ですが、一般用は効き目が低いとはいえません。これらの成分はもともと伝承的に受け継がれたもので、スイッチ薬ではなく税制控除の対象にはなりません。

 消化器官のぜん動運動は自律神経で調整されていて、この調整に役立つ抗コリン薬などについては先に述べました。他に消化管運動調整薬と呼ばれる薬があり、医療用で使われています。

 トリメブチンマレイン酸塩がスイッチ化されています。3製剤の2剤は中和剤、酵素剤、生薬成分を加え胃腸薬として販売されています。1剤は単剤で医療用と同じ名称ですが、効能を過敏性腸症候群(IBS)に限定しています。

 一般薬としての胃腸薬は漢方、和方で伝統的に使用されてきた生薬成分―多くは抽出し乾燥した粉末を複数配合したものがあります。ゲンノショウコ、オウバク、ロートなどが代表的なものですがスイッチ化とは関係ありません。

4-3 下痢と便秘に使う薬
 おなかの具合で悩んでいる多くの方にとって切実な問題は便通に関連しているのではないでしょうか。最初にも述べましたが下痢と便秘は対応が真逆ですが、症状が相互に繰り返すなど一層困ることになる例も珍しくありません。

 原因を明らかにして対策をとるといっても消化器官機能調整をするのは自律神経で、自分の意志どおりに働かないから症状が起きているのです。前章にあげた過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎などはストレスなどが遠因や背景にあるとみられ、現在も病因の解明と対策についての研究が続いている「難病」なのです。

 下痢は腸内に蓄積された毒性物質を排除するいわば自衛反応なので、一概にこれを阻止するのがよいかは考える必要があります。ただ昔から「水にあたる」といわれるように旅行をすると当地の水になじまず下痢すると言われました。原因は水の硬度、すなわち当地の飲用水に含まれる無機質イオンの組成によることがわかりました。硬水と軟水の違いなどとも言われています。このような下痢を止めるのはロペラミドが世界で定番とされています。日本でも医療用からスイッチ化され、現在20の製剤が一般用として販売されています。

 一方、腹痛があっても便がでない、おなかがはってパンパンで苦しいといった症状に苦しんでいる方もいます。繊維質(ファイバー)の多い食物やこれを主体としたサプリメントも販売されています。

 医薬品としては酸化マグネシウム、ビサコジル、ピコスルファートなどの無機または有機化合物、センナ、アロエ、ダイオウ、プランタゴ・オバタ種皮などの生薬由来成分が単味または2種以上の配合剤として使用されています。医療用のビザコジルは坐剤ですが、一般用は全て内用です。この中でスイッチOTC薬に該当するのはピコスルファートのみで単味製剤が3剤、整腸も兼ねた合剤が1剤一般薬として販売されています。

 スイッチOTC薬は下痢と便秘にそれぞれ1剤ずつですが、それぞれの症状には生薬成分などを配合した多くの一般用医薬品があります。古来より伝承された民間薬を継承し、漢方や和方に由来する名称が付されている薬もあります。成分と薬効の関係が必ずしも明確ではないものもありますが、一概に効かないと断定はできません。

4-4 薬を選ぶ際の配慮する点
 他の領域と違っておなかの具合―消化器官の病状は千差万別で、一様な対応が難しいのです。背景に消化管粘膜の免疫機構とストレス関連ホルモン、仲介する自律神経系の複雑な関連があるためで未だ全容解明にいたっていません。

 セルフメディケーションでは、緩和な対症療法を優先しましょう。スイッチ薬にこだわらず、自分がよく経験する症状にあう薬を2、3定めておくことです。信頼できる薬剤師に相談して、症状が起きたとき、実際に使って確かめることです。心理的効果を含め、「信頼できる常備薬」は頼りになります。薬局や薬店で購入できなければ、ネット購入も可能です。宣伝のキャッチコピーや企業名にまどわされず、症状をきいて配合成分を考え、対応してくれる薬剤師に相談してください。

 繰り返しになりますが、感染症、潰瘍による出血、さらに胃痛と間違える心筋梗塞発作など重大な病変も類似症状を呈しますので、それらの鑑別には十分警戒してください。

4-5 疑問点と提言
 スイッチOTC薬を使う際の購入金額を税制控除とするのは、医療費控除の例外規定と説明されていますが、いくつか疑問があります。

 今回対象の消化器官関連の一般薬は範囲が広く薬の種類も多くあります。その中でスイッチOTC薬、あるいはそれを含む製剤のみを対象とすることに無理があります。部位を胃に限定しても酸分泌を制御するヒスタミンH2受容体拮抗剤が3成分ありますが、他の拮抗剤もあります。消化管運動調律にかかわる成分は医療用として汎用されていますがスイッチ化されているのはこの中の一部です。また、胃粘膜保護の成分においてはスイッチ化が早かったため汎用されている製剤が対象外とされています。

 腸の症状に対するOTC薬は消化酵素剤、生菌、生薬成分の合剤が圧倒的に多く、スイッチ薬はほとんどありません。消化酵素に関しては名称の区分があいまいな点があり、成分の表示や名称がわかりにくく説明に困ります。

 下痢と便秘に関してはそれぞれ代表的薬剤が1剤スイッチOTC薬として対象になりますが、他の製剤と相性がいいという方にどう説明するのでしょうか。個々の製剤の成分含量についても疑念があります。

 おなかの具合(症状)に関わるOTC薬は要指示からI、II、IIIまで分布しています。さらに部外品の他食品としても販売されています。一方、同じ成分を含有し、効果・効能もほぼ同じ製剤が医療用、保険薬価適用とされています。一般用薬(スイッチOTC化に関係なく)について成分のリスク分類を明示し、薬剤師による使用説明を徹底する。これを前提に医療用薬効分類23-1 消化器官用薬を保険適用から外すことを提案します。

一般の皆様へ:今回の領域の薬はスイッチOTC薬以外の成分が多いため、全般については成書などを参考にしてください。成分名や効能・効果について不明な点は薬局の薬剤師におたずねください。

薬局・薬剤師の方へ:患者、一般の方からの個別の商品名や配合成分についてのおたずねは、医薬品集などで検索しお答えください。当協議会会員の薬剤師の方へはスイッチ化成分を含む製品について情報提供いたしますので事務局へご連絡ください。

2017年05月 更新