加藤哲太(セルフメディケーション推進協議会理事)
(2015年06月 掲載)
「慢性疲労症候群」(CFS:chronic fatigue syndrome)は、原因となる疾病が無いにもかかわらず、激しい全身倦怠感が長期にわたり日常生活に支障を来す病気です。
一般的な慢性疲労(程度によらず疲労感を自覚し、半年以上続く場合)とは異なり、人によっては「箸やペンを持てない」「座るのもつらい」など、体を動かせない程の強い全身の倦怠感に陥り、休養をとっても軽減されません。
CFSの有病率は10万人に1〜38人程度と推定されていますが、このばらつきは、認知度の低さや、うつ病、神経症などに誤診されている患者が多いなど、症例発見の差によるものと考えられます。女性患者数は男性の1.3倍から1.7倍であると報告されています。
多くの研究がされているにもかかわらず、CFSの原因は解明されていません。現時点で病気原因の可能性として以下の報告があります。
・感染症
欧米各地でCFS集団発生が報告されたことで感染症の関与が疑われ、病因ウィルスの発見を目指した研究が精力的に行われてきました。その代表例として、EBウィルスなどが挙げられ、さらに細菌感染症の可能性もでてきました。
日本でも91年に肺炎クラミジアに感染した86人中12人がCFSに罹患したという集団発生例が確認されました。しかし、感染症の関与だけでは説明し難く、現在もなお議論が続いています。
・内分泌(ホルモン系)、免疫系、神経系の異常
健康でいるために体には「内分泌(ホルモン系)」「免疫系」「神経系」の仕組みが備わっています。これらは相互にバランスを保持しながら作用していますが、過剰なストレスが生体にかかると、様々なホルモンのバランスが崩れ、病原体から体を守る免疫系にも影響を及ぼします。細菌と闘うNK(ナチュラルキラー)細胞の働きが弱くなると、潜伏していたウィルスが活性化され、さらにそれを攻撃するため生体内で免疫物質が作られます。しかし、これらの応答をすべてコントロールすることができず、かえって内分泌系や神経系にまでダメージを与えてしまうことがあります。このような悪循環に陥ると、神経伝達物質が減少し、脳神経細胞の機能障害による異常な疲労感が発生すると想定されています。
最近、本疾患患者の血液中で、「アセチルカルニチン」という神経伝達物質の合成に必要な物質が特に脳内自律神経系を司る部位で減少していることがわかり、倦怠感との関連が注目されています。
・アレルギー疾患
約65%のCFS患者にアレルギー疾患罹患歴があったことから、アレルギー反応も病因の一つとして考えられています。
厚生労働省や米国防疫センターの診断基準を満たすものに対して、「慢性疲労症候群(CFS)」という診断名がつけられます。以下のような場合にCFSと診断されます。
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6か月以上持続ないし再発を繰り返す慢性的な疲労を主訴とした患者を診察する場合、表に示す慢性疲労症候群(CFS)臨床診断基準を用いた診断を実施し、前提?,?,?を満たしたときCFSと診断する。前提?、?、?のいずれかに合致せず、原因不明の慢性疲労を訴える場合は、特発性慢性疲労(Idiopathic Chronic Fatigue:ICF)と診断し、経過観察する。

疲労や思考力低下などCFSと類似の症状を呈する疾病に「うつ病」がありますが、通常、うつ病症状は朝に重く、午後になると軽減される傾向があるのに対し、CSFでは朝は比較的軽く、午後から徐々に強まるという点が異なります。また、免疫などに関与している血中ホルモンのコルチゾール濃度はうつ病の場合は、やや高値を示すのに対し、CSFでは低い傾向がみられるなど違いがあります。
もっとも大切な事は、心身ともに休養をとることです。CFSの場合、軽く動くだけで翌日まで疲労感が残る時期には運動は逆効果になります。体を休め、疲労が軽減する状態になれば、ウォーキング、水泳などの有酸素運動を医師の厳密な指示の下で定期的に行うことで、疲労感を軽減させ、身体機能を高められます。また、患者の特性として「完璧主義」の人が多く、ストレスに影響されやすいことがわかってきました。そこで、認知行動療法が行われることがあります。これはストレス対処法を医師と話し合いながら見つけていくものです。
◎現在、治療の中心は薬物療法ですが、その効果には個人差があります。
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小児慢性疲労症候群(CCFS:Childhood Chronic Fatigue Syndrome)
児童・生徒がある時期までは元気だったのに、ある日を境に深刻な疲労に苛まれたときにはCCFSの可能性が考えられます。
不可解な病態から日常社会生活が長年にわたり障害され、本人のみならず家族を巻き込む社会問題となってしまいます。
・有病率は0.2〜2.3%
・中枢性の疲労状態と考えられている
・不登校の児童・生徒に多く存在し、3ヶ月以上の持続する疲労・倦怠感および睡眠・覚醒リズム障害などを伴う
主な特徴
1)疲労、2)睡眠問題、3)疼痛、4)神経認知問題、
5)自律神経症状・神経内分泌症状・免疫系症状
診断
国際的な診断基準(2007年)による。詳細は
http://www.hwc.or.jp/hospital/kodomo/syouni_suimin_6.html を参照
◎疲労度を自己確認する
慢性疲労があり病的と思われるときは、早期に医療機関で検査や治療を受けることをお勧めします。疲労の状態を定期的に調べて変化をみることが有効です。
・疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究
(文部科学省科学技術振興調整費 生活者ニーズ対応研究班)
http://www.hirou.jp/
・慢性疲労症候群(CFS)診断基準(平成25年3月改訂)の解説
(平成25年度 厚生労働科学研究費補助金
「慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及」研究班 ホームページ)
http://www.fuksi-kagk-u.ac.jp/guide/efforts/research/kuratsune/index.html
・抗疲労臨床評価ガイドライン、疲労感の評価方法、疲労感VAS検査方法(日本疲労学会)
http://www.hirougakkai.com/
・子供を蝕む大人の病気 慢性疲労症候群(小児科別冊2008年)
http://www.fuksi-kagk-u.ac.jp/guide/efforts/research/kuratsune/pdf/2008chounika.pdf
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